森寸の彫刻刀巻  Carving knife roll

20年ほど前のことだと思う。長野の山奥にオフロードバイク仲間が集まり、険しい道を競い合って走破して遊んでいた。少し危険な場所もあったけど、集まったメンバーは指示されたルートを通り、暗くなった林道を疲れた体でキャンプに帰ってきた。雨が降りとても寒い日だった。午後8時をすぎても帰ってこないライダーが一人いた。初期型CRMに乗ったむらちゃんだ。確かその時の彼は初参加だったと思う。もし何かあるとすれば、あの場所の先にある崖か??捜索に行くにも夜そこに行くのはとても危険で、なおかつ不気味すぎて怖くて行きたくない。むらちゃんは心配だけどお腹減ったなぁ・・。どうする?と捜索に行くこともなく、みんな頭の中で捜索活動をしているときにむらちゃんは帰ってきた。何で遅れたかは忘れた。とにかく怪我もなく無事だったということでよかった。

・・・・・・・
と、正直そんな記憶しか残っていなかったむらちゃんとは、その後20年会っていない。風の便りで「木彫りの世界では結構な有名人になっている」と言うことは聞いていた。
そんなむらちゃんとfacebook上で再会をした。かわいい木彫りをしているだけではなく、「morrison  森寸」と言う工房で子供たちといろんなものを作ったりして精力的に活動をしているようだ。
WEB MORRISON
FACEBOOK PAGE
WEBを見るとムラバヤシケンジワールドが広がっている。もう15年続けているんだそうだ。すごいな。

で、ここからが本題。野口シートの工具巻をフェースブック上で頻繁に紹介していたら、僕の彫刻刀巻も作ってくれないでしょうか。という依頼がむらちゃんからきた。(今ではムラバヤシ先生と呼ばれているだろうけど、昔のままで、ここではむらちゃんと書かせてもらいます)
彫刻刀巻・・・刃物だもんなぁ・・スパナやドライバーをさすような具合にはいかないよなぁ。と思いながらも面白そうなので「よし、受けてたちましょう!」と言う事で、製品化になることは絶対にないであろう彫刻刀巻プロジェクト開始。

その1 先ず使っている彫刻刀を並べてスケールと共に写真を送ってください。
1057278_478443588896714_483274870_n1061066_478443592230047_2059319791_n1057373_478443595563380_788958409_n1063419_478443598896713_606652165_nへーーーー、いろんな彫刻刀があるんだな。命である刃先は、いままでも相当慎重に丁寧に包んでいたようだ。しかし、毎回こうして包むのは手間もかかるのは十分理解できるので簡単に仕舞えて、簡単に広げて、その彫刻刀巻を扱うむらちゃんの仕草を見る子供がじっと見て憧れるようなものにしなければ

その2 先ずは叩き台
1057717_481277245280015_1718619232_n先ずはビニールレザーでポケットの広さ深さの検証。巻き方などなど・・を提案。全然ダメ。当然問題も要望も出る。しかし、これがあるから次に進むことが出来るんだ。
1063193_481277255280014_2029895179_n992584_481277248613348_823699669_n折りたたみを提案したけれど、やはり巻きがいいということで・・
1063391_481277258613347_674745696_nいや、これは0.8mmのビニールレザーだから破れますって。
1057369_481277251946681_38083913_nまぁ嫌だろう・・・俺も嫌だもん
1061760_481277238613349_861300737_nこんなのが良いと言って来たむらちゃん!
そりゃー子供は喜ぶよなぁ。
でもなぁ・・ふぅ。先ずは形状を決めることが先決です。

その3 完成を見据えて
彫刻刀巻と言う事で、素材はハイテク素材よりもこっちがいいかなと、厚手の帆布と補強のための本革で行くことにした。
1060834_484567054951034_664411271_n1058762_484567048284368_358887088_n1069037_484567051617701_1215665452_n1063385_484567044951035_889085843_nが・・・
見えない場所に破れ防止の補強をしたことと、ポケットにたるみを持たせなかったことで、彫刻刀を入れると写真のように扇形に変形してしまった。良く考えれば分かることだけど、ここまで反るとは思わなかった。ノグチシートの工具巻きでも採用しているフラップは具合がいいので採用となった。ダメなことばかりでもなくて、彫刻刀巻を止めるベルトは当初2本がいいと言っていたけど、試してみると1本がいいってのが分かったし、色々作ってみると発見があるんだ。でも、この試作品もボツ。ゴミ箱行き。
むらちゃんも「いや、もう大変なんで怪獣とかいいです」とか遠慮してくるし、時間ちょうだいと言いながらあまり引っ張ってもたいしたアイデアは浮かばないし、浮かばないならどんどん作るしかない。飽きないうちにこの仕事は完結しなければ。どの仕事も同じですけどね。飽きたら良い物が作れるはずがないんです。

その4 少し見えてきた感じ
1057312_484848441589562_1463540932_n僕も結構ずるくて「じゃぁさ、今までの試作を踏まえてどんなのが理想やと思う」なんて言って絵を描いてもらった。
そしてこれ
1058607_592440864139460_1251302959_n彫刻刀入れは3分割して扇になるのを防ぎ、上のフラップと左右のフラップはそれぞれ部品として分けた。
1002100_487638407977232_2088638891_nおっ
1003461_487638421310564_747340145_nおぉぉーーー
994514_487638401310566_1685776163_n着地点が見えた!
生地の縁巻テープとかはどうする?取っ手とかは?

蛍光色がいい・・・と、むらちゃんが言いました。
そう、帆布と革で職人を意識した素材に蛍光色のテープです。むらちゃんワールドに口を挟むことはしません。行きましょう。それで。

そして

IMG_5354

 

じゃーーーーん!!

蛍光色が、まぶしっ!

IMG_5351ぺたんぺたんとおりたたんでくるくるっとまいてーーーぱちっととめて

彫刻刀巻の完成です。
やっと出来た。出来たはず。多分使うと問題点も出てくるだろうけど、とりあえず形にはなった。
当分これで持ち歩いてもらおう。
IMG_5355こっそり裏側に銘を入れさせてもらった。
さー むらちゃん、たくさん作品を作ってください。