チェイス!BAJA1000 Chase!

バハ1000より戻ってきました。憧れだったラパスの灯を最高のシチュエーションで見ることができました。

今回このような機会を与えてくれたJCR社長のジョニーキャンベルと今度のダカールでチーフメカをされる花輪さんには感謝申し上げます。ほんと、素晴らしい体験だった!
はじめて行ったバハは、普通に参戦すると見ることができない常勝チームJCR/HONDAの裏側を見てきました。

結果は先のブログにも書いたとおりJCR/HONDAは優勝し、16連覇と言う結果に終わりました。 16連覇と言うと、その圧倒的な強さから敵無しの土俵で戦っているように思われそうですが、なにがなにが緻密に計算された作戦とスタート直前まで続けられるプリラン(コースは分かっているので事前走行ができます)など、経験に基づいたしっかりとした準備がされています。

レースを支えるスタッフは多く居り、個人もサービスを受けることができるJCRのピットが20箇所あり、そこには1x用の万が一のトラブルに備えたスペアパーツが置いてあります。
ちなみにスペアパーツの1つとしてタイヤがあるが、リアタイヤはムースではなくチューブ!パンクのリスクがあるのになんで?と思う方も多いと思うが、JCRライダーのスピード域になると熱でムースが溶けてしまうんだそうです。

※交換したタイヤがこれ。って言うか換えるたびにこんな感じになってる。リムもグニャぁって。よくパンクしないものだ・・・

そして、 行く前に花輪さんから聞いていたチェイスカーと呼ばれるサポートカーが2台。「レースを見るのも面白いですけど、チェイスもなかなか迫力がありますよ。地味ですが・・」この車には精鋭のメカニックが乗り、交代するライダーも同乗します。タイヤ交換やライダー交代、夜になる頃にはヘッドライトの取り付けなど、重要なピット作業はこの2台が先回りをして、あらかじめ開設されているピットの人たちと一緒に作業をします。
そう!なんと、その車に同乗してきたんです!
いいのか?
行く前は適当にどこかのピットに下ろされてレース眺めることになるかな?なんて思ってたから驚きました。

先回りをすると言うのは簡単に聞こえますが、追いかける相手は平均時速90km/hで走るマシンなので、チェイスするほうも相当なスピードで一般道を走ります。一般道なので一般車も多く走っています。一般車と言うより様々な商品を運ぶトレーラーが多い印象でした。それらをどんどん抜いていかねばなりません。マッドマックスのエンディングシーンを覚えている方は分かると思いますがあのイメージです。先の見えない坂やブラインドコーナーをイケーーーーーーッ!!!って(^^;  2台で走っているので、先行するほうは対向車の情報を常に無線で後続車に知らせてバンバン抜いてこれるように情報を流します。
※一般道はこんな道ばかりではありません。峠越え、ワインディングなど様々なんです。

もし、1本しかない道路でトレーラーが道を塞いでいたら?チェイスする車が壊れたら?間に合わなかったら?と、もしもが発生した時にはその場で最善の判断ができるメンバーが乗っているので、もし何か合ったときでも即座に次の行動に移るそうです。その辺りが16連覇を支えてきたスタッフの経験がなせる技なんですね。実際、帰り道では事故で横転したトレーラーを見ましたし、そのせいで通行止めが続くのも見ました。

作業するピットに到着すると誰かが指示を出すでもなく、各個人がそれぞれ自分の担当するパートの工具を出したり、交換パーツを出したり、ピット作業が素早く行えるように段取りをします。
最初の作業の時もそうでしたが、そもそもスタッフのミーティングというものがないんです。花輪さんに聞いたのですが、やはりそうで、いわゆる阿吽の呼吸で動いているとのことでした。
ことあるごとに花輪さんが「ね、たいしたことしてないでしょ」と言ってたけど、この意味もなかなかなもので、他のチームが真似できるかと言うと、簡単にできるものではないでしょうね。
簡単にこなしているように見えるプロの作業ほど、真似してみると全然出来なくて簡単じゃないことくらい僕でも知ってる(^^)
※ライダーを待つJCRチーフメカニックのエリック。

サポートカーには無線、衛星無線、衛星電話、サポートカーの位置を知らせるGPSと、ハイテク機器が載せてあります。
ライダーも位置情報発信GPSを携帯しているので、その信号が定期的にサポートカーに届く。なので、今ライダーがどこを何キロで走行中とか、2位や3位との差はどのくらいだとかの情報もどんどん入ってきます。

サポートと言えばヘリコプターの存在も大きいですね。JCRとロゴが大きく書かれたヘリがバイクと一緒に飛びます。
ライダーとヘリ、ヘリとサポートカー、そして各ピットへ情報が常に流れます。
ピットで待っているとヘリが彼方から飛んできました。まだ音が聞こえませんが、山影から出てきたヘリを見ながら僕の頭の中にはこれが流れましたね。
ピット作業中は上空で旋回し、ライダーが飛び出すとヘリがついていきます。
※僕が乗った車です。

作業が終わればチェイスする2台も素早く撤収し次の作業ポイントに向かいます。
バハ1000は1000マイル(今回は1100マイル約1800km)を走る競技で、スタートしたら一気にゴールまで走る競技です。ちなみにJCRの予定ではゴールは20時間後のAM02:30。当然サポートするほうも同じように舗装路を行きます。チェイスする車は第2ライダーと共に、前日に200kmほど先に進んでいるとは言え、ピット作業をするので当然ライダーより後ろになってしまいます。当たり前ですがレースコースは一般道を縫うように走るので先回りが可能となります。

ピットでの作業の模様を撮ったのでご覧ください。
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手伝える空気ではないし、初めてのやつが手を出すものでもない。部外者が思いつきで何かするとトラブルの原因になる。
しかし、次のピットでは人手がなくて「野口!俺がタイヤを外すから新しいタイヤをこうやって(ジェスチャー混ぜて)渡してくれ」ってメカのT.Jに言われてスゲー緊張しながら手伝いました。
そう!あのJCR/HONDAのピット作業を手伝ったのです!ほんの少しでも手伝ったのだから、やったと言って良いのだ!なんかうれしーーー!

レースは600マイルを過ぎても2位とは数分しか差がついていない。数年前は30秒差で優勝したこともあり(1000マイル走って30秒差ってのもすごい話だな)、近年のレース展開は見てるほうは面白いけど、レースをしてるほうはドキドキの僅差での勝負が続いている。(実際今年のバハ1000の前に行われたバハ250、バハ500ではKTMとカワサキに負けている)
今回も2位のカワサキは終盤近くでは1分以内の差まで縮めてきていた。
レースも終わりに近づき、無線やGPSからの情報で、昨年はJCRのライダーだったKTMのクインが転倒骨折で病院に運ばれたとか、カワサキに重大なエンジントラブル発生と伝えてきた。車内はそれを聞いて大喜びするでもなく、いままで来た通り自分達の任務を遂行するために、淡々と ゴールのラパスに車を走らせていた。淡々と、ほんとこの言葉の通りスタートしてからゴールまでその調子だった。陽気でテンション高めのアメリカンを想像してたのに、どちらかと言うと沈着冷静なスタッフの集まりでした。

「これがバハです」

ゴールのラパスが近づいてラパスの街の灯りが見えてきた頃、花輪さんが後部座席に乗る私に振り返ってこう言いました。

※先に見える明かりが「ラパスの灯」ゴール手前で最終ライダーのティミーの通過を待つ。ここまで来てもまだ安心はしない。何かあれば直ぐに対処するのがメカニックの使命なんだ。後10分、後五分、もう直ぐ来るよと無線が入ったとき、ティミーはウイリーでサポートカーを抜かして走り去っていった。体中の毛が抜けるかと思うくらい鳥肌が立った瞬間でした。

走ってる人もそうだけど関わった人たちすべてにバハがあるわけで、今度来るときはまた新しいバハを発見すると思います。
1000マイル。優勝チームの20時間のドラマはあっという間だった。短いようだけど僕にはこれ以上の経験をしたことがないほどの濃密さがあったし、優勝チームたるゆえんを多く見る事ができた。やっぱり来て良かった。なぜこのパーツなのか、なぜこの処理なのか、なぜこのシートなのか、全て理由があるんです。それは来て見て感じないと分からない事なんです。

制限時間45時間  自分が走ったら制限時間内も厳しいのではないか・・・比べるのも失礼な話だけど、JCRライダーたちの桁外れの速さがよくわかる。でも、走ればバハがある。また憧れのレースが1つできた。

少しの間、バハで見てきたことを色々書いていきます