アンコ抜き 足つきの向上を考える

・・私のバイクはxxなのですが、最大何センチ下げられますか?
・・現在片足のつま先がギリギリ着く状態ですが、両方のつま先で踏ん張れるくらいまで下げられますか?
と言う問い合わせは多いです。

足が届かない不安はバイクに乗る人にとっては重要な問題です。
なのでその不安を少しでも解決できないかと考えています。
スポンジを全部削ったら、その分低くなるんだから簡単じゃないの?と言う方もおられます。
それがその人にとって一番良い効果を生むのであればそれでいいでしょう。
しかし、低くなったと喜んで実際乗ってみると
低いのに足つきがそれほど良くなっていない・・
クッション性が無くなってお尻が痛い・・
体に接するハンドルとステップとシートの位置関係が悪い・・
という問題が出たりします。
オレンジのラインが脚です。
左の絵は座面幅の広いシートです。
右の絵はその座面の両角を斜めに削った時の絵です。
ノグチシートでは足つきを良くするという考えと、足を車体の近い位置に出しやすくするというのは同じだと考えております。
シートの形によって加工方法は変わりますが、単純にシートの厚みを薄くするだけの加工をすると左の絵のようにシートの幅は変わらず(もしくはノーマルより幅が広くなってしまう)内腿へのシートの干渉が大きくなり足が出しにくくなってしまいます。
この2つのシートは両方とも純正品で、右が標準タイプ。左が30mmローダウンです。30mm低いのですが、座面の幅は標準タイプより全体に広いです。
と言うことは、先に書いたように削れるだけウレタンを削って欲しいという要望に応えたシートになっています。
では、標準タイプで足つきに不安があるライダーが30mmローダウンシートに交換したら30mm足つきが向上したかと言えば、残念ながらそこまで大きな効果がが得られていないというのが現状です。なぜなら、低くなっているのに幅が広いためシートの角が内腿に干渉し足が車体近くに出しにくくなるため、バイク近くに足を着こうとするにはお尻をずらして足を出さなければなりません。
では、標準シートの前部を赤のノーマルラインから青いラインまでシートの角をシェイプするとどうでしょう。
着座位置の幅は維持したまま、足を着くとには前部の細い部分にお尻をずらして足を出せばいくらか足つき性の向上を体感できます。
こうした加工であればクッション性の維持もでき、足つきとお尻の快適性の両立が図れます。
なにより、ぺちゃんこのシートより見た目もカッコよいです。
そうは言っても、例えば身長150cmにも満たない女性がアフリカツインで足つき性を向上させたいと相談に来られても解決策はありません。
こう書くと、ノグチシートはアンコ抜きをしないのか?と思われそうですがそうではありません。十分な厚みのあるシートは座面を下げてシート前部をシェイプし、場合によってはシートの角度も調整したりします。
クッションの厚みのないシートの場合は、若干盛ることで足を出しやすくしたりと言う提案もしております。
足つきの不安の解消と同時に快適性の向上も図りたいというのが当社の考えです。バイクの種類だけその解決方法は異なりますのでご相談ください。

足つきと同時に快適性と言うところで当社がお勧めしているのが衝撃吸収材T-NETです。
アンコ抜き、アンコ盛、高さの変更はしない場合でも衝撃吸収材T-NETの挿入はお勧めです。

衝撃吸収材T-NETについて
当社が独自に開発した衝撃吸収材T-NETは、ダカールラリーなどの長距離で
過酷なラリーからツーリングシーンなどで、お尻の痛みが改善された、快適性が上がったと、多くのプロライダーや一般ライダーから評価を得ている衝撃吸収材です。T-NETは2013年からホンダHRCのワークスマシンに正式採用されており、2020-2021にはダカールラリーにおいて連続総合優勝を果たしました。
また、ノグチシートの代表も自ら長距離海外ラリーで使用し、バイクからの振動吸収、座圧の分散によって痛みや疲労の軽減を実際に体験し、そのおかげで好成績を収めることが出来ました。
しかし、痛みや疲労の軽減効果につきましては個人差がありますので、
効果を保証するものではない事を予めご理解ください。

お客様からゲルの挿入はやってませんか? 低反発ウレタンの加工はできませんか?等の質問を受けますが、当社ではゲルや低反発ウレタンは使用しておりません。持ち込みでも加工は致しません。既にゲルの挿入加工をしたシートの再加工も受けておりません。
ゲルや低反発の知名度は高く、座った瞬間の感触から快適という錯覚を起こします。
当社も20年ほど前からゲルや低反発ウレタンなど様々な材料をテストし、海外のラリーでも実際に使用してきました。
これら材料は快適なシートにするには良い効果が得られないと判断し使用していません。
現在使用している衝撃吸収材T-NETが今考え得るベストな素材として使用しております。

足つきと同時に快適さも考えてお客様にご提案できればと考えています。

youtube観てたら「裏抜き」という荒業が紹介されていました。
結論から言うと、これやったらシートは終わりです。
やった結果、良い効果が得られた人は良いのですが(多分よくならない)失敗だったという場合は新品を買い直すしかないです。
アンコ抜きも人それぞれ考えはあると思いますが、せっかくやるなら良い結果が得られる方法を選びたいですね。

関連するブログのリンクも張っておきますので合わせてこちらもどうぞ。
関連ブログ1
関連ブログ2

足つきの向上についてはまだまだ書くことがありますが、追々加筆してゆきます。

2022ダカールラリー用、ワークスマシンのシート。

 

HRC HONDAチームのシートのお手伝いを始めて今回で10年目となります。

早い段階で優勝が見えた時もありましたが、ダカールラリーはなかなか厳しくて念願の優勝は8年目。
そして、9年目の今年も優勝して連覇と言うかたちで勢いに乗っている。
10年間ワークスマシンのシートを作ってきて、いろんなことを学べました。
シート製作の基本的な技術だけではなく、素材の選定、素材の組み合わせ、シートに付帯する様々なこと。
レースの現場からダイレクトに届く問題や要望は、一般的なライディングでは出てこない内容で、それらに応えるためには一般的なスペックの材料より、ワンランク上の素材が必要になってきます。
何が言いたいのかと言うとただの自慢なのですが、正社員3人の小さな会社が世界的大企業の看板を背負って走るワークスマシンのシートを10年も手伝っているのは、少数でありながらも世界に通用する技術と知識を備えている証かなと思っています。
単なるバイクの1部品であるシートですが、それを作る当社には大きな責任があるといつも思っています。
これは、ワークスマシンのシートではなく全てのシートに言えることで、この姿勢は今後も変わることはありません。
2022のダカールラリーはどうなるでしょうか。
楽しみです。

 

 

ウルトラスエード(アルカンターラ)の耐久性

それにしても、よく乗っていると自分でも思います。
BMW R100RS
乗っても見ても楽しい。
購入して約10か月で6,000km走りました。
その間にCT125やCRF450Lで走ってますので、この期間バイクでの走行はトータルで10,000kmは走ってますね。
総走行距離は70,000kmになりました。
気になるところと言えば、カンカンという打突音が出たり出なかったりという症状。タペットなどの基本的なところは完ぺき(だと思ってる)なのでネットでくまなく調べては見たけど、素人の質問に素人が答えてそれを素人が閲覧してという地獄なので、6,000kmそのままで特に問題出てないからまぁいいやと楽観することにしてます。

さて、これだけの距離を走ったシートがどんな状況かをお知らせします。
ちなみに雨の走行は1回のみです。
ここまでのシートのメンテナンスは、水を多く含ませたタオルで表面を前後に拭く程度です。前後に拭く理由は、ウルトラスエード(アルカンターラ)の毛並みが後ろから前へと揃えてあるので、前後に拭くことで毛が立ったり寝たりして整うからです。
先ずは作ったばかりのシートの写真です。
撮影の条件が違うので比較にはならないかと思いますが、参考までに見ていただければと思います。
これが作りたての状態です。

そしてこれが6,000km走行したシート

作りたてのシートと比較しても大きな違いは見られないです。
毛玉とか傷は見られません。
色褪せも問題ありません。
当然のことながら、感触の変化もありません。
6,000km程度では表面の変化は当然ながら起きません。
使い方や保管方法でウルトラスエードの寿命は変わってきますが、それほど神経質にならなくてもビニールレザーと同じ扱いで良いのではないかと私は思っています。
引き続きこのシートで走り回ろうと思ってます。

洗い方も以前紹介したように、こんな感じでよいです。

ビニールレザーよりも高価な素材ではありますが、その質感は体感すれば間違いなく満足いただけると思っております。

 

 

 

タンデムソムリエ

野菜ソムリエ 温泉ソムリエ 豆腐ソムリエ・・・
なにか評価する人のことをいつからか xxソムリエ と呼ぶようになったようです。
良し悪しは別として、日本語として定着はしたように思います。

なので、バイクシートのタンデム部分を評価する人をタンデムソムリエと呼ばせていただこうと思う。

相変わらず休日のバイク遊びは、天気が良いのも手伝ってあちこち走り回っています。
海を見に行ったり

ご当地名物を買ったり
友人と朝ラーメンツーリングも定期的にやっています。
どれも相変わらずです。

しかし、毎回バイクは一人。
二人乗りで出かけることは稀なのですが、先日当社に在籍するタンデムソムリエが「久しぶりに、タンデムシートの性能チェックをしてみようかな」というので、私が作ったR100RSのシートのタンデム部分の座り心地を、美味しいものでも食べながら出かけましょうとなりました。

このタンデムソムリエですが、それはもう本当に厳しい。バイクの免許は持っていないのでタンデムシートの乗り心地しか知りません。
ずいぶん昔に作ったシートで出かけた時、1時間くらい経過したころに、刑事がドアを乱暴に叩くあれと同じように僕の背中がどんどんと叩かれました。
どうかしましたか?
「ちょっとバイクを止めろ!」
「信じられんくらいお尻が痛い!」
「ここからバスで帰る!」
「キングオブシートが聞いてあきれる」
と、それはもう厳しい言葉をいただき、なだめて帰宅したことがあります。
もちろん普段は優しい言葉使いです。それほど耐えられないシートだったんだと口調からわかります。
それから何度かの試乗と試作を経て
「これなら一日乗ってられる」
「あの時の痛みがうそのよう」
とまで言われるようになれたので、免許は無いけれど後ろに乗るかもしれない人たちの気持ちも少しわかるようになりました。
頻繁に休憩を入れなくても大人しく乗っていてくれるし、あちこち寄り道も苦にならないし、なにより険悪な空気にならないのがいい。
美味しいごはんでシートの評価を忖度してもらうつもりでもないのですが、車でドライブするのと変わらないくらい気分良くツーリングできればそれに越したことはありません。
この日の走行は250km。
「お尻ことは気にせず乗ってられる」
という評価だったので100点としておこう。良かったです。

タンデムシートに衝撃吸収材T-NETを挿入してアレコレすると、かなり大掛かりな作業となりますが、それに見合った効果はあると思っています。

タンデムシートのご相談も遠慮なく質問お問い合わせください。

 

 

 

フローティングターンがしたい!シートのアンコ抜き。

少し前のことですが「フローティングターンをマスターしたいけれど、そもそも軸足が地面に届かないからお話にならない」という相談を受けました。
ちなみにフローティングターンは下のyoutubeで観るようなやつで、オフロードバイクで山の中で遊んでいるときにこれが使えるとかっこよく見えるし、実際かっこよく上手い人の称号が貰えます。


マシンはKTM150XC-W 2017
依頼人の身長は 157cm
シートのみでどこまで足つき性を向上させることができるかなので、車体の写真を眺めるけど絶望的に厚みがない。どうしたものかと悩む。

単純な考えで「じゃぁシートのウレタンを取っ払うレベルまで下げたら良いのでは?」と思われがちですが、それをやるとどうなるか。
これはノーマルの状態で跨ったもの。
ギリギリ片方のつま先は地面に着くが、腰の位置は中心からずれてしまっている。
ウレタンをシートベース付近まで削ってしまうと、目線は低くなるけれどシートの幅がノーマルよりも広くなってしまい、股間が開いてしまいます。
左の図はシートベースまであんこ抜きをした図と想像してください。
右の図の赤いラインがウレタンを残したままサイドをシェイプした図となります。見てわかる通り、低くなったにもかかわらず強制的に足が外に出されて、足つき性というか足の出しやすさが阻害されています。
なので、単純に削るだけでは低くなっても足つきが良くならないことになってしまいます。

今回のテーマはフローティングターンをするための「踏ん張れる足」を作るためなので、それに特化したシートにしてみました。
シートの前部のアップです。
左がノグチシート  右がノーマル。
ノーマルがかまぼこ形状に対し、ノグチシートは高さは同じながら上面を絞った台形の形状となっています。
座面幅の違いはこの写真でわかるかと思います。
シートのセンターの高さはノーマルと同じままです。
着座部分の座面の幅も同じです。なので、コーナー立ち上がりなどの着座姿勢でのトラクションをかけやすい幅となっており、前部はエッジを立てたシェイプによってコーナーでのホールド感の向上にも役立ってます。
高さを変えないこのシェイプの結果はというと
まぁ撮り方によっては「やらせじゃないの?」と言われそうですが、左のノーマルに比べて右のノグチシートは腰が中心にいて、腰が入ったまま足が着くようになったと言うことになります。
これだと、腰を入れた力強いフローティングターンができる!かも!!!
と喜びの感想をいただきました。
平地では、まだ不安なので段差を利用して練習中の図。
そして、結局これが平地でマスターできたかどうかは謎のまま・・その後聞いていません。
先ずは挑戦するという、やる気になるシートができたことは確かです。

今回は薄いシートのオフロード車の話でしたが、これはどのバイクにも応用が利く足つき性向上の技法です。
ただ削って低くするだけではなく、乗り心地も残しながら安心できる足つきが得られるご提案をさせていただきます。