糸にも種類がたくさんあって、縫う物によって素材や太さなどを変えています。厚い革を縫うときは0番や5番、8番。ビニールレザーなどは8番、20番。薄い布などは30番、50番と太さを変えていきます。糸は数字が小さいほど太くなっていきます。車両関係のカバーなどはは5番や8番が一般的ですね。
当社の場合、糸の素材はポリエステルかナイロン。ナイロンはポリエステルに比べて伸びがあるので、伸縮がある程度求められるビニールレザーなどのカバーリングに良く使います。しかし、耐候性はポリエステルに劣ることがあるので、使用条件に基づいて素材も変えます。変わったところでは、耐熱カバーなどはノーメックスを使用したり、特殊な所ではザイロンの糸を使った縫製品を作ることもあります。今現在は分かりませんが、数年前まで世界最強といわれていたザイロン。右の写真はザイロンの糸を燃やしている所です。燃えません。電球のフィラメントのように赤く光るのみです。煙も出ません。もちろん焼くことで強度は落ちますけど、燃えないというのはすごいです。
強度のある糸で縫えば縫製品は強くなるかと言えば、一概にそうでは無いと私は思っています。違うと言う人もいるでしょうが、今の所私はそう思っています。例えばケブラーの糸でバイクシートを縫ったとしましょう。糸は強いです。しかし、生地がケブラー生地ならまだしも一般的なビニールレザーであったらビニールレザーが負けて縫製したところから割けてしまいます。また、引っ張り強度と摩擦強度も重要です。バイクシートの場合ステッチ糸が常にこすれる所にあると、糸は切れてしまいます。これはケブラーなどの糸も同じです。引っ張り強度が高くても、擦れには弱い。写真のシートは世界一周を3年かけて走ったシートです。ステッチの糸は綺麗になくなってしまいましたが、本縫いの糸はしっかりしているので縫製がパンクすることはありませんでした。
さて、最近提案してもらった糸はこんなものでした。
一般的な糸は指で撚りを戻すようにひねると右の写真のようにパラッとほどけてしまいます。
しかし、提案品は同じ素材と太さながらパラッとしません。パラッとしないと言うことは表面にそうならないための加工が施されています。その加工によって摩擦に対する強度も飛躍的に上がっているので、バイクのステッチなどには最適な糸になります。
と言うか、汚い指先でごめんなさい。爪は伸ばさない派です。
なぜこれがいいのかと言うと、ミシンで縫製するとき、縫製スピードによっては、この撚りがほどけて糸切れがしやすくなったりします。また、切れなくても撚りが戻った状態の強度がおちた状態で縫えてしまう場合もあります。そんなときは縫い直しですが、やはり人間が行なうものですから見落としなどもあります。なのでより性能のいい材料を使うことでおのずと製品のクオリティが上がりますね。糸を気にしなくてよくなった分、他の事に気を使えるので当たり前の話しなんですけどね。
糸に限ったことではないけれど、素材には常にアンテナを張ってより良いものを使って、製品を作って生きたいと思います。